こじらせ社長のお気に入り
「で、でも、実際に秘書の仕事は誰にでもできることで、状況はどうであれ、私がミスしたんであって……」

「誰にでもできる仕事なんかじゃない」

「えっ?」

「俺の秘書は、誰にでもできる仕事じゃない。笹川ちゃんだから、俺の秘書に選んだんだ」

社長は熱い眼差し向けながら、私に語りかけてくる。

「秘書は総務の中から選ぶことになっていたんだ。でも、初めて君を見た時、俺はこの子に支えてもらいたいって思ったんだ。こんな真っ直ぐな目をした子がそばにいてくれたら、俺も変われるんじゃないかって思った。
公私混同って言われるかもしれないけれど、それでも、君にそばにいて欲しいって思ってしまったんだ」

社長はどうして変わりたいと思ったんだろう。自分のなにを変えたいと思ったんだろう。
私に向ける好意の種類が、いまいち掴めない。

「ごめん。なんでもない子には、可愛いとか平気で言えるけど、本当に伝えたい時に、言葉って出てこないもんだな」

そう照れたように苦笑する社長を見て、胸の奥がキュンとしてしまう。

考えてみたら、異性に対してこんなに切なく思うのは初めてかもしれない。
これまで付き合ってきた人達に対しても、こんな気持ちになったことは一度もなかった。それは勇斗に対しても。




< 173 / 223 >

この作品をシェア

pagetop