必殺スキル<子守り>だけで公爵夫人になっちゃいましたが、ほのぼの新婚ライフは幸せいっぱいです
2章 ハットオル家の人々
「ジーク様! アルがただいま戻りましたよ~。ん?」
所用から戻ってきたアルは、主の部屋の扉を開けて絶句した。
「なんじゃ、こりゃ」
立派なベッドがあるというのに、ジークはでかい図体を丸めて床に転がっているし、掃除をしているはずの新入り女中は図々しくも、すやすやと眠っている。そして、彼女の腕枕を奪い合うかのように、三つ子がかたまって丸くなっていた。
アルはスタスタとエイミの元へ向かうと、かがみこみ、彼女の頬をぎゅっとつねった。
「烏ちゃん! 大事な大事なお掃除はどうなったのかな~」
エイミははっと飛び起きた。顎をつたうよだれの存在で、自分が寝こけてしまったことを悟った。目の前で、アルが凶悪な笑顔を浮かべている。
「わっ、ごめんなさい! つい、うっかり……」
「ついうっかり主の部屋で寝てる女中なんて、僕は初めて会ったなぁ」
「うぅ。ごめんなさい。掃除は今からでもやりますから」
「今からじゃ、朝になっても全部屋終わらないじゃないか」
「こら、アル。その娘を責めるな」
騒ぎで目を覚ました大男が立ち上がりながら、言った。
「その娘が子守りを代わってくれたのだ。おかげで俺は久しぶりによく眠れた」
大男はうーんと大きく伸びをした。やはりアルと比べても、相当に背が高い。
「それは結構ですが、公爵ともあろう方が床で寝るなど……」