必殺スキル<子守り>だけで公爵夫人になっちゃいましたが、ほのぼの新婚ライフは幸せいっぱいです
(わぁ、王子様だ~)

 彼をひとめ見た瞬間、エイミはそう思った。村の男達とは全然違う。美しく、気品があって、そして、エイミを救ってくれた。

「君が新しい女中だね。城内に案内するから、こちらへ」

 彼はそう言って、エイミに手を差し伸べた。輝くように白いその手に、農作業で荒れまくった自分の手などが触れていいものか……エイミは戸惑った。

 すると、彼はぐいとエイミの手を取り、エイミを引きずるようにして小屋から出た。

「あ、あの……」

 助けてもらったお礼を言わなくては。エイミは勇気を出して彼に声をかける。
 振り返った彼は手にしていた蝋燭をかかげて、まじまじとエイミを見つめた。

 そして、思いっきり顔をしかめた。


「うーん、近くで見るとたしかに気味が悪いな。まるで烏みたいだ。そうだ!君のことは烏と呼ぶことにしようか」
「へ?」
「あ、偶然とはいえ助けてあげたんだから、僕のことは呪わないでよ」

 烏とは、ずいぶん懐かしいあだ名だった。村のイジメっ子にもそう呼ばれていた。

 どうやら王子様の中身は、村のイジメっ子とさして変わらないようだ。

(そうよね。とことんついていない私に、優しい王子様があらわれるはずなんてないか)

 エイミはあっさりと納得した。それに、不運が標準仕様の自分にしては、あの場面で助けが入るなんて、ずいぶんとラッキーだったと思う。彼のおかげであることは、間違いない。

「あの、助けてもらってありがとうございました。こんな髪と瞳ですが、人を呪ったりはできないので安心してください」
「お礼ならジーク様に言いなよ。僕はあの人の指示に従っただけだし。到着したら、すぐに部屋に案内してやれって言われてたからね」
「……ジーク様とは?」
「ノービルド領主、ジーク・ハットオル公爵だよ。君を買った、君のご主人様」
「えぇ? あなたが領主様では?」

 こんなに優雅でお金持ちそうな男は初めて見たから、エイミは彼が領主その人なのだと思い込んでいた。
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