必殺スキル<子守り>だけで公爵夫人になっちゃいましたが、ほのぼの新婚ライフは幸せいっぱいです
「ちっ、これだから田舎もんは。ジーク様本人が直々に女中ごときを迎えに行く必要がどこにあるんだ」

 なるほど。言われてみれば、たしかにそうだ。 
 そして、彼は物腰は柔らかだが、なかなかに口が悪い。

「では、あなたは?」
「僕はジーク様の側近さ。名はアルバート。アルでいいよ。でも、これからよろしくの挨拶はひと月後にしようか。若い女はどうせすぐにいなくなるからなぁ」

 アルはぼやきながら、城の裏口の鍵を開け、重そうな鉄製の扉をひらいた。

 それは、あなたのご主人様が女性を追い出したり殺したりするからなのでは? エイミは心の中ではそう思ったが、さすがに口には出せない。

 城内はとても広かった。廊下は信じられないほど長く、扉がいくつも並んでいる。絨毯もびっくりするほどふかふかで、エイミは歩くたびに足をとられて転びそうになった。
だが、アルが言うにはこの城はとても質素なのだそうだ。

「はるか昔に築かれた軍事用の城を、居住用に作りかえたんだよ。ハットオル家の財力なら新しい城をいくらでも築けるんだけどね」

 アルは螺旋状になった階段を指差しながら説明する。

「二階にはジーク様と子供達の部屋がある。僕の部屋も二階。使用人の部屋は一階の奥だ。といっても、この城に使用人はほとんどいない。僕と料理人兼庭師のトマス爺と女中頭のゾフィー婆や。先月、女中が三人も立て続けに辞めたもんだから、人手がまったく足りていない」
「はぁ……」
「やむなく掃除と子守りをゾフィー婆やが一手に引き受けてたんだが、彼女ももう歳だ。腰を痛めてしまって、いまは故郷で療養中だ。そんなわけだから、君は明日から掃除に雑事にと、早速働いてもらうよ」
「は、はい!」

 エイミは少しほっとしていた。

 残虐公爵になぶり殺しにされるために呼ばれたものだと思っていたからだ。
 掃除をしろという命令がくだった以上、とりあえず明日の命は保証されたんじゃないだろうか。それとも、掃除の出来次第ということなのだろうか。
< 7 / 243 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop