必殺スキル<子守り>だけで公爵夫人になっちゃいましたが、ほのぼの新婚ライフは幸せいっぱいです
「じゃ、それをきちんと本人に伝えたらいいじゃないですか。母親役じゃなくて、妻として必要だって」
「その通りだ。アルは格好いいうえに、賢い。お前と結婚する女性は幸せだな。……俺はエイミのところに行ってくる」
ジークはくるりと踵を返すと、ものすごいスピードで部屋を出て行ってしまった。
「……いてて。ほんとに馬鹿力なんだから」
アルはジークの指の跡がくっきりと残っている腕をさすった。
そして、窓の外に目を向ける。空はすっかり白み始めていた。
「……行ってくるって、こんな明け方に? ま、あの様子だと烏ちゃんも起きてるか」
アルはふわぁと大きな欠伸をした。
「ほんと、あのふたりには付き合いきれないよなー。大体、僕の方がいいのかもって、ジーク様はどこに目をつけてるんだ? 烏ちゃん、いつだって僕のことなんか素通りで、ジーク様しか見ていないじゃないか」
素直で、駆け引きなんてできない、似たもの同士のふたりだ。好意の矢印なんて、当人達以外には丸わかりだった。
あのふたりの行く末は、どう転がってもハッピーエンドだろう。
「馬鹿馬鹿しい。さっさと寝よ」
アルはぽつりとこぼすと、ジークの部屋を出て行った。