必殺スキル<子守り>だけで公爵夫人になっちゃいましたが、ほのぼの新婚ライフは幸せいっぱいです
 翌日。エイミは柱時計とまだ手つかずの部屋の扉を見比べて、顔を青くしていた。

 早起きは苦ではなかった。村の朝も早かったから、いつも通りだ。そして、アルに指示された掃除の内容もいたって普通のもので、公爵様といえども掃除は庶民と同じなのだなと、ほっとしたくらいだ。

 が、掃除をはじめてすぐ、二部屋ほど終えたところで、これは大変だと気がついた。なにしろ数え切れない程の部屋があるのだ。このペースで進めていては、日付がかわっても終わらないだろう。

 掃除と子守りを一手に引き受けていたゾフィーさんとやらは、いったいどんな超人なんだろうか。
 
 頼りのアルはエイミに指示だけ出すと用があるとか言って、出かけてしまった。庭師のお爺さんの姿も見あたらない。

 広い城なのだが、本当に人の気配がないのだ。一階にはエイミしかいないのかも知れない。
 二階には領主様と子供達がいるらしいが、アルには「僕が帰ってくるまでは二階には上がるな。ジーク様の邪魔をするなよ」と、言いつけられていた。

 言いつけを破る勇気は起きなかった。エイミは終わらないことを覚悟して、ひたすら一階の掃除を進めていた。

 六部屋目の掃除が終わったところで、二階から泣き声が聞こえてきた。

 わ~ん、わ~んと赤子がぐずっているような声だ。弟や妹の世話をしてきたエイミには懐かしい響きだった。

(やっぱり、昨夜のあれは夢ではなくて、この城には赤ちゃんがいるのね)
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