ぜんぶ、嫌いだけど
「一緒に帰ろ?」
甘ったるい声が嫌い。
上目遣いでこちらを見ながらお願いすれば、なんでも聞いてくれると思っている。
だいたい、私にこうやって寄ってくるときは大抵彼氏に用事があるときだ。
開いたままだった水道の水が、じゃばじゃばと音を立てながら流れ落ちていく。
私は逃れるように視線を逸らして、両手に水をくぐらせる。
捻りすぎた蛇口から大量に出てきている水は生ぬるくて、不快だった。
「もしかして用事ある?」
「……ないけど」
ポケットから出したタオルで手を拭きながら、目の前に広がる窓越しの青空に目を細める。
うんざりするほど、眩しくて暑くて青い。
水で手を洗ったのに全然涼しくならなくて、蒸し暑さが消えない。
「じゃあ、一緒に帰ろっ! 決まり」
顔をくしゃっとさせて笑う彼女は、遠慮なく私の腕に巻きついてくる。
こんなに暑いのに、いつも平気で抱きついてくることが不思議で仕方ない。
「カバンとってくるから待ってて」
水道のところに彼女を置いて、ひとまず自分の教室へ戻る。
どう足掻いても一緒に帰ることになりそうだ。