新婚未満のかりそめ初夜~クールな御曹司は淫らな独占欲を露わにする~
「小川さん以上に気難しくて、理不尽な人が上司だったからかもしれません。おかげで、人の些細な表情の変化もわかるようになりました。前の会社で扱っていたのは家具だったので、意外と力仕事も多くて。だから品出しなんてへっちゃらでしたよ。むしろ楽しかったです」

 そう言うと川端は、愛らしい笑顔を見せるものだから、心臓を鷲掴みされたかのように苦しくなる。

「……そうか」

 どうにか声を絞り出すだけで精いっぱいだ。

 今、感じるこの感情になんと名前を付けて、どう表現すればいいだろうか。

「だけど正直、金子さんが急に行けなくなってひとりで不安だったので、新川部長が来てくれて心強かったです」

 川端は真っ直ぐに俺を見つめてきた。目が合うと、どこか照れくさそうに口を開く。

「ありがとうございました。……ジョージさん」

 さっきまで『新川部長』と呼んでいたくせに、ハニかみながら『ジョージさん』はないだろ。
 年甲斐もなく恥ずかしくなり、窓の外を眺めた。

「金子から連絡をもらい、ちょうど帰るところだったから、立ち寄ったまでだ」

 なにを言っているのだろうか。本当は心配で一目散に駆けつけたというのに。

「それでも嬉しかったです。……さっきもありがとうございました。単純な性格なので、褒められるとますます頑張ろうって思えます!」

 素直で前向き。笑顔が可愛くて、だけどいざという時は凛としていて、芯の強い女性でもある。

 川端に特別な感情を抱くわけがないと高を括っていたが……。

 チラッと隣を見れば、川端も俺を見ていて照れくさそうに俯く。

 こういう何気ない仕草も一々グッとくる。

 もう認めなくてはいけないようだ。俺にとって川端は、特別な存在になっていると。
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