新婚未満のかりそめ初夜~クールな御曹司は淫らな独占欲を露わにする~
 ジョージさんは、最後までかけ合ったらしい。金子さんの退職が免れないのなら、せめて婚約破棄だけでも社内に公表したい。みんなを騙すかたちで金子さんを送り出したくないと。

 だけど社長は首を縦に振らず、世間体を気にしてふたりはいまだに婚約したままと認識されている。

 金子さん同様、先輩たちはジョージさんにも「おめでとうございます」「あんな綺麗な奥さん、羨ましいです」「よりいっそう仕事に精が出ますね、きっと」と、声をかけている。

 ジョージさんは笑顔で受け答えしながらも、時折複雑な表情をしていた。

 そうだよね、だって金子さんとジョージさんが結婚するわけではないのだから。

 この一ヶ月半、ジョージさんとは会社で業務上の話をしたり、挨拶を交わしたりする程度で、まともに話をできていない。

 忙しそうだったし、なにより家では思い悩んでいる姿が多く見られ、なんて声をかけたらいいのかわからなかった。

 大家さんと金子さんは、いつも通りに接してくれたらいいと言っていたけど、ジョージさんの気持ちを考えると、それができなかった。

 お祝いムードで進む送別会。みんなの飲むペースも早い。その中でもジョージさんは、次々とみんながお酌にくるからずっと飲んでいる気がする。
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