クールな王子は強引に溺愛する
そこから更に庭園の奥の方まで足を伸ばしたエミリーたちは、明らかに辺りを気にする怪しい人影を見つけ、顔を見合わせる。
広い庭園で、こんなに奥まで来る人は少ないのだろう。ここに来るまでの間、誰にも出会わなかった。そんなところに人がいて、それも見るからに怪しげで。
頷き、示し合わせるようにモリーと近くの植木に体を寄せる。遠くにいるその人の顔はよく見えない。
辺りを見回したその人は庭園の奥、物置小屋なのだろうか。庭園の石垣に沿って建つ大きな建物に入っていく。
どうしよう。後をつけて大丈夫かしら。
心臓はドキドキと激しく波打ち、モリーと視線を絡める。行かない方がいいに決まっているのに、好奇心が顔を出す。モリーはエミリーの気持ちを読み取ったのか、首を左右に振って窘めた。
視線だけで押し問答を続けていると、ギギッと小さな音がして物置小屋の扉が再び開いたのがわかった。
こちらに来るかもしれない!
肝を冷やし、音を立てないように植木と植木の間に体を押し入れる。息を潜め、怪しい人物が去っていくのをひたすらに待つ。