クールな王子は強引に溺愛する
今日も宿として借りている貴族の客室で、エミリーの身支度を手伝いながら、どこを見つめるでもなく焦点の定まらない顔つきをしている。
「モリー。どうしたの? 馬車旅に疲れてしまったの?」
声をかけると、ハッと意識を覚醒させたように声を上げる。
「いえっ! そのような」
そこまで言っておいて、なにかを迷っている顔つきをして、モリーは呟くように言った。
「どうしましょう。城にいたときにも密かに思っていたのですけれど」
どうしたのだろうか。モリーが密かに悩んでいたというのだろうか。
心配していると、モリーは驚くべき内容を口にした。
「グレイソン様が、麗しくあられて」
エミリーは驚きのあまり息を詰まらせ、目を丸くする。城での生活では、エミリーの侍女のモリーと、リアムの従者のグレイソンという立場上、グレイソンと関わる機会が多かっただろう。
それにしたって、今までにない展開にエミリーは自分のことのように胸をときめかせる。