クールな王子は強引に溺愛する
「久しぶりの馬車旅は疲れただろう。早めに寝よう」
「は、はい」
雰囲気は若干和らいだものの、こちらを見てもくれなくなり、寂しさが募る。
それともただ身分違いの恋を汚らわしいと思っていらっしゃるのかしら。
それはそれで悲しかった。
エミリー自身は伯爵令嬢ではあるものの、リアムは格段に身分が上であった。そのせいか、どこか自分を否定されたような気持ちになる。
なにか言葉を交わしたいと思うのに、結局はなにも言葉が出て来ずに挨拶だけ形式的に口にする。
「おやすみなさいませ」
「ああ」
実際、疲れていたのだろう。エミリーは程なくして眠りについた。規則正しい息遣いを聞き、リアムは閉じていたまぶたを開く。
完全にリアムを信用し、無防備な姿で眠るエミリー。閉じられた瞳は長い睫毛に縁取られ美しい。
そっと手を伸ばし、エミリーの髪をひと筋掬い取ると目を伏せ髪に口付ける。
「こんなにも側にいるのにな」
掠れた声は、虚しく部屋に消えていった。