クールな王子は強引に溺愛する
朝になるとリアムは決定事項としてエミリーに告げる。
「第二王子の名残りで残務処理が残っている。再び所用を済ませながらの旅になりそうだ」
同じ馬車に乗り、同じ風景を見ながらお喋りできる時間は突然終わりを迎えた。急な報告に昨晩の失言のせいかもしれないと、エミリーはなにも言えずに立ち尽くす。
「そう寂しそうな顔をするな。離れ難くなる」
軍服に着替え終わっているリアムが歩み寄り、頬に触れた。自然と顔を上げるとゆっくりと顔が近づいてきて、思わずリアムの服の端を掴む。
近づいた顔は少し傾げられ、そのまま唇が重なった。そっと触れた唇は優しくて、胸の鼓動が早くなり顔が熱くなっていくのがわかる。
久しぶりの夫婦らしい触れ合いは、涙が出そうになる程に繊細で控えめだった。
部屋のドアがノックされ、「エミリー様のお着替えの準備が整いました」とモリーの声がした。
「ああ、俺は部屋を出よう」
エミリーは本当に離れ難いと思っているのに、リアムはいとも容易く体を離してしまった。
「着替え終わったら出発する。俺たちは次の宿に着くのが遅くなる。先に休んでくれて構わない」
「はい」
かろうじて返事をして、隣の部屋に移動する。「離れたくありません」だなんて我がままを口にできる雰囲気ではなかった。
軍服を着たリアムはどこか遠い存在に思え、口付けさえも夢だったのではないかと思えてしまった。