クールな王子は強引に溺愛する
「エミリー!」
愛しい人の声に振り向こうとした体は、駆け付けたその人の手に引かれる。リアムに抱き寄せられる体は、前キッシンジャー卿から離れていく。
「危ない!」
リアムが払い退けたなにかが、エミリーの手を掠める。
「痛っ」
咄嗟に手を引っ込めると、指先に小さな血の跡。それはほんの僅かな赤い点。それなのに、みるみる呼吸が苦しくなっていく。
悪魔のような笑い声を高らかに上げる前キッシンジャー卿は、より一層力強く取り押さえられ、その服の裾からキラリとなにかが光を反射した。
「養蜂していたと聞いてピンと来た。一度くらいは平気でも、蜂は何度も刺されると死に至るのだよ」
視界がぐらりと傾いていく。
「エミリー! エミリー!」
リアムの悲痛な叫びを最後に、ぷっつりと視界は暗転し真っ黒な世界に落ちていった。