クールな王子は強引に溺愛する

「結婚を急いだ理由はキッシンジャー卿が力づくでエミリーを奪おうとしていたからだ」

 この点についてはリアムからも聞き及んでいる。父も知っていたからこそ、リアムの求婚に意を唱えなかったのだと知る。

「ごめんなさい。私のせいでもあるのよ」

 母が突然口を開き、父が庇うように訂正をする。

「それは違う」

 母は口元を覆い、嗚咽を漏らす。自分のせいで娘を危険に遭わせた。そんな自分を責めている思いを感じる。

 そして父はその母を守るように抱き寄せる。

 話を続けられない父に、見兼ねたクリフォード卿が続きを受け取って話し出た。

「エミリーは母上譲りの美しさだね。その美しさゆえに当時母上はキッシンジャー卿に随分と言い寄られていた。けれど母上はエストレリア卿を選んだ」

 寄り添う父と母にチラリと視線を映し、仲睦まじい姿を確認する。娘から見てもふたりはいつも仲がいい。

「当時のキッシンジャー卿はまだ爵位を継承する前で力もなかった。それに後々爵位を継承する者として、それ相応の結婚相手も決められており、それを跳ね除けるほどの熱意もなかった。ま、母上はエストレリア卿と結婚してしまったのだから、それは仕方のない話かもしれないが」
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