クールな王子は強引に溺愛する

 まさかキッシンジャー卿が母に想いを寄せていたとは思わなかった。

 確かにエミリーとは歳が離れ過ぎていて、ここまでエミリーに執着する意味を測り兼ねる。

 この騒動の発端がそんなに昔にあったとは、考えもしなかった。

「キッシンジャー卿は親同士の決めた政略結婚を受け入れ、領土自体は潤った。しかし夫婦の関係は冷めたものだったようだ」

 一方は決して裕福とは言えない伯爵だが、夫婦仲のいいふたり。それを目の当たりにし続け、キッシンジャー卿の中でなにかが壊れてしまったのだろうか。

「それを逆恨みし、いつまでも母上に執着していたのだろう。その娘が年頃になると、矛先を変えた。エミリー、それがきみだ」

 積年の恨みが込められていたと思うと、背筋がゾッとする。その反面、寂しい人だったのだと同情する気持ちも湧き、自分自身の心持ちに困惑する。

「そしてエストレリアの財政が傾くようにしたのだよ。例えばエストレリア産の野菜や加工品を周りに買わせないように圧力をかけ、不当に買い叩いたりしてね」

 周りの人々と父との親交と絶たせるように圧力をかけるだけでは飽き足らず、エストレリアの交易さえも邪魔をしていたの?

 あまりの非道な行いに、怒りで握りしめる手が震えそうになる。
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