クールな王子は強引に溺愛する
「安心して。今さら逃げ出したりしないわ。修道院長にリアム様からの求婚をお受けするご報告をしに行くだけよ」
「そう、ですか」
納得したのかどうかはわからないが、少しだけ寂しそうな顔をさせ、モリーは黙ってしまった。
修道女になることにあれほど反対しつつも、自分の思い通りに生きられないエミリーを不憫に思ったのかもしれない。
賑やかで楽しく、優しいモリー。
大好きな人たちに囲まれて生きてきた自分は、幸せだとエミリーは思う。
穏やかで理解ある両親に、親しみを込めて接してくれる領民のみんな。それになによりかわいい弟のブライアンが将来エストレリア伯領の爵位を継げるように、エストレリア伯爵家を没落させるわけにはいかないのだ。
当時も『貴族が働くなどと……』との偏見は未だに根強く、財政は傾けど公然と働く自由はなかった。ならば領地内でエストレリア伯領が潤う方法がないだろうかと模索した。そのひとつが野苺のジャムだ。
立ち直りつつある財政。あと一息で安心してリアムの元に嫁げる。例えそこにブライアンの言う『愛』がないとしても。