クールな王子は強引に溺愛する
寒くなると冬を越せない巣もあり、養蜂も難しいものであると知った。それでも少しずつではあるが、ジャムに入れる蜂蜜だけでなく、蜂蜜単体としても流通させられる量を取れるまでになった。
比較的穏やかで暖かい気候のエストレリア伯領の地形もあり、北側の領地には珍しい野苺のジャムや、蜂蜜は高級な食品として人気になるといいなという淡い期待もあった。
「蜜蜂の様子を間近で見られませんか?」
控えめにお願いしたつもりだったのだが、修道院長は目を見開いて口調を強めた。
「エミリー様。お近くでは見られない約束です。またいつの日かのような惨劇に見舞われましたら、エストレリア卿に申し訳が立ちません」
子どもの頃、隠れて蜜蜂に近づいたせいで痛い目にあっている。それを引き合いに出されると、お願いしづらくなる。
「今日が最後になってしまうかもしれないので」
本当にリアムの元へ嫁ぐのか、まだ半信半疑ではある。だからと言って準備をしないわけにもいかない。
「今日が、最後と言うのは」
「この度、その、婚約が決まるかもしれません」
この場合は結婚ではなく、まずは婚約だろうと言葉を濁す。
生涯結婚するつもりがなかったために、結婚するにはどのような手順を踏めば正式なのか全くの無知だった。