クールな王子は強引に溺愛する
突然、連れ去られて
修道院長と別れ、馬車はしばらく進んだ先で止まった。
どうしたのだろうかと御者越しに前を見ると、艶々した黒毛の馬がこちらに駆けてくる。目を丸くして次第に近くなってくるその輪郭を見つめ続けた。
その馬の背には悠然と背筋を伸ばし騎乗するリアムの姿があった。馬は止まっている馬車に横付けられる。
どうして今日もこんな辺鄙なところにいらっしゃるの? リアム様は王都にいらっしゃるのではないのかしら。
後から後から湧いてくる疑問符は、リアムの存在感の前ではかき消されてしまう。
御者は最大限にこうべを垂れ敬意を払い、馬車に繋がれている馬は黒毛馬の迫力に気圧され、顔を背け尾を両後肢の間に巻き込んでいる。
馬車は屋根のついた立派なものではないためエミリーに隠れる場所はない。思わずモリーと体を寄せた。
「エミリー。迎えに来た」
切れ長の深い碧眼の瞳が有無を言わせない風格で真っ直ぐにエミリーから視線を外さない。目が合ったただそれだけなのに、胸は苦しいほどに騒がしい。