クールな王子は強引に溺愛する

 リアムに促され行こうとしても、キッシンジャー卿は尚も言い連ねた。

「エミリー嬢はお飾り妃だと噂されていますよ。一向に民に報告しようともしなければ、内外に向けたお披露目もなにも計画されていない」

 言われてみれば、王に謁見しただけで、結婚式の予定も、国民への挨拶も、なにもかもの予定をリアムから聞いていない。

 これから話してくれるのだと呑気な考えが過ぎったとき、鈍器で殴られたような衝撃が襲う。

「第二王子の妃として、紹介するつもりはない」

 顔からみるみる血の気が引いていくのがわかる。視界が歪み、ふらついたエミリーは浮遊感に襲われた。

「今から妻とのお楽しみの時間だ。邪魔してもらっては困る」

 倒れたのかと思ったが、リアムに抱きかかえられたようだった。

 目を閉じたエミリーはキッシンジャー卿たちから見ると、ただリアムに甘えているだけに見えたようだ。

 口惜しそうにリアムを睨むキッシンジャー卿を一瞥し、部屋へと急いだ。

 エミリーが大事に抱えていたライラックは手から滑り、可憐な花は見向きもなれないまま床に落ちて小花を散らす。
 踏まれそうになる既の所をモリーが拾い上げ、急ぐリアムとグレイソンの後に続いた。
< 91 / 267 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop