ループ10回目の公爵令嬢は王太子に溺愛されています
あの事件は風化してしまったとばかり思っていたが、こんなにも身近に諦めずにいてくれた人がいたことに胸が熱くなる。
ふたりの傍に立っていたダンが花壇の方へと顔を向け、うっとりと呟く。
「それにしても、見事な光景ですね。まるで花が燃えているかのようで神秘的です」
言われてロザンナも目を向け、「わぁ」と声をあげる。咲き乱れるディックは、アルベルトの力に呼応して、花弁を真っ赤に染め続けていた。
目の前に広がる神秘的な光景と、ダンの興奮気味な様子。その二つが九回目の人生での兄との記憶と繋がる。
あの時の兄が言っていたのが、まさに今この瞬間のことだったとしたら。想像が、またいくつかの点と点を結びつけていく。
九回目の人生でも、アルベルトがこの場所でエストリーナ夫妻を殺害した犯人を捕まえたとしたら。
しかし、ロザンナは兄から何も聞かされていない。
それはきっと、スコットは亡くなっているため確たる証言もなく、それを良いことにあの男に白を切り続けられてしまい、罪を認めさせられなかったからかもしれない。
男に指示を出しただろうアーヴィングも、宰相となり強大な力を持っているため、引きずり下ろすのも難しい。