ループ10回目の公爵令嬢は王太子に溺愛されています
「役に立つかどうかわからないけれど、私が試験を受けた頃、読んでいた本です。良かったら、エレナさんもどうぞ」
「貸してくださるんですか? ありがとうございます。頑張ります!」
嬉しそうに笑う彼女に「頑張ってください」と微笑みかけた後、ロザンナは教室を出た。
廊下にはマリンがいた。彼女のそばに残ったのは、友人と呼べるであろう子がふたり。
彼女たちから向けられる敵意を感じる眼差しはいつも通りで、ロザンナもそっと視線を逸らし、足を止めずに進んでいく。
にこやかに挨拶してくる花嫁候補たちを笑顔でかわしながら東館から西館へと移動すると、空気が緊張感のあるピリッとしたものに変わる。
後期のテストは花嫁候補たちにとって受ければ良いものでしかなく、今や、ロザンナとマリンのどちらに軍配が上がるかと楽しみにしている者もいるくらいだ。
一方、成績が進級や進路に大きく関わる一般の学生は呑気でなどいられない。教科書片手に廊下を行き交う姿は、みんな真剣そのものだ。
そこまで考えて、花嫁候補の中にも一般の学生と同じ空気を纏っている人がふたりいるのを思い出す。
ルイーズとエレナだ。ルイーズは一般の授業をとっているので言わずもがなだが、エレナもまた大きな試験を控えている。