ループ10回目の公爵令嬢は王太子に溺愛されています
アルベルトは顎に手を当て考え込んだ後、ロザンナを見た。
「アカデミーまでそんなに遠くない。時間もあるし歩いていくか」
賛成だと頷き返すとアルベルトから手を差し出され、ロザンナは胸の高鳴りと共にその手をとった。
「本当によろしいのですか?」と慌てる御者に「問題ない」と返事をし、ふたりは歩き出す。
幸せを噛み締める度、ロザンナは思う。
あの日、アルベルトに庇われていなかったら、十回目の人生はとっくに幕を閉じていたかもしれないと。
だからこそ今この瞬間が限りなく愛しくて、少しも無駄に出来ない。
城の門を出ると、次々と町の人々からお辞儀をされる。
前回同様、アルベルトは笑顔で手を振り返し、ロザンナはぎこちなく頭を下げ返し続けた。
のんびりと歩を進めていくと、やがてアカデミーの校舎が見えてくる。
「私の人生に、これほどの幸せがあったなんて」
しみじみと思いを口にしたロザンナに対して、アルベルトは小さく笑う。
「もう俺たちふたりの人生だ」
ロザンナは息をのむ。胸を熱くさせながら、笑みを浮かべる。
「えぇそうですね! アルベルト様とこれからもずっと一緒です」
「支え合いながら生きていこう」
しっかりと手を繋いで仲睦まじく歩いていくふたりの姿を目にした人々にも、笑顔が広がる。
まだ若いふたりが、才に溢れ国に繁栄をもたらした名王と人々の傷を癒す女神の如き王妃として尊敬され慕われるのは、もう少し先の話。
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