ループ10回目の公爵令嬢は王太子に溺愛されています
手を貸した方がいいかしらとロザンナが見つめる先で、「いたっ!」とリオネルが声を上げた。彼も指先を切ってしまったらしい。
それでも彼は一度放した瓶のかけらを再び摘み上げようとしたため、ゴルドンが「そのままで」と素早く言葉を挟み、リオネルの手をそっと掴んだ。
すると、ゴルドンの手元が眩く輝き出す。一瞬遅れて、ゴルドンからふわりと発せられた温かな魔力の風をロザンナは感じ取った。
「……あっ、失敗しました」
治癒が進み、魔力の輝きが収まりかけた時、ゴルドンはしまったといった様子で苦い顔をする。
「今のは、ロザンナさんが光の魔力で治癒にあたれる絶好の機会でしたね。一度も経験していない状態で、患者さんを練習台にさせる訳にはいきませんが、リオネルなら話は別ですから」
ゴルドンが苦笑いする横で、リオネルが完全に傷が塞がっている自分の指先をじっと見つめて、「俺、もう一度、指くらい切ってもいいですけど」と真剣な顔で呟く。
それに「やめておきなさい」と笑みを深めて答えたゴルドンにつられて、ロザンナがわずかに口元をほころばせていると、突然アルベルトに腕を引っ張られ、室内に引き戻された。
ロザンナはあっという間に椅子に座らされ、自分と向かい合って立つアルベルトをぽかんと見上げる。
「……アルベルト様?」
状況が理解できずに名を呼びかけると、アルベルトがロザンナに手を差し出してきた。
「俺が練習台になる。若干血も出ているし、ちょうどいいだろう」
そこでロザンナもようやく理解する。小さな切り傷のある指先とアルベルトの顔へと、動揺まじりに目を向けてから、覚悟を決めて勢いよく椅子から立ち上がった。