ループ10回目の公爵令嬢は王太子に溺愛されています

「それでしたら、アルベルト様がお座りください」

 椅子には患者であるアルベルトが座るべきだとロザンナが促すと、アルベルトは頷いて素直に従う。
 緊張気味に、ロザンナは彼に向かって手を伸ばすが、途中でぴたりと動きが止まった。
 治癒は相手に触れつつ行うもので、アルベルト自身も手を差し出したままの状態である。
 同意の元であっても、相手は王子だ。今更ながら気軽に触れていいのかとロザンナの心に小さなためらいが生まれる。

「……人に魔力を使うのは初めてですし、うまくできずご迷惑をかけてしまうかもしれませんが……本当によろしいのですか?」

 そして触れる以上に、王子を実験台にしてしまって良いのかという考えが頭をよぎる。
 ロザンナが確認するように問いかけると、アルベルトは急に不貞腐れた顔をし、肩をすくめた。

「構わない。俺がロザンナの初めての患者になりたいから」

 彼の口から真剣に告げられた思いにロザンナの鼓動が大きく跳ね、自分を真っ直ぐ見つめる眼差しに心が熱くなる。
 時が止まったような錯覚に陥りながら見つめ合っていると、そっと、アルベルトがロザンナの手を掴んだ。

「あいつにも、もちろん他の誰にも、ロザンナの初めては譲れない」

 別の意味にも聞こえてくる彼の言葉に、ロザンナは大きく目を見開く。掴まれた手がほんのわずかに震え、心に芽生えた熱が一気に広がっていく。
 つい膨れっ面で「揶揄わないでください」とロザンナが文句を口にすると、アルベルトはすぐに表情を崩し無邪気に笑って、掴んでいた手を放した。

「よろしく頼む」

 改めて、切り傷のある手を差し出され、ロザンナは自分の中で燻る気恥ずかしさを必死に押し隠しつつ、アルベルトと向き合う。

「では……失礼致します」

 気持ちを切り替えるように息を吐き出したのち、両手で温もりを包み込むようにして、アルベルトの手に触れた。
 ロザンナが発した魔力の輝きをアルベルトはその身で受け止めながら、心地よさそうに、そして満足気に目を瞑ったのだった。


<END>
< 253 / 253 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:449

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜
  • 書籍化作品
[原題]凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚~初恋からはじめませんか?~

総文字数/147,422

ファンタジー229ページ

表紙を見る
そんな裏設定知りません! 冷酷パパから結婚を申し込まれましたが、これって破滅フラグですか?
  • 書籍化作品
[原題]そんな裏設定知りません!冷酷パパから結婚を申し込まれましたが、これって破滅フラグですか?

総文字数/141,764

ファンタジー276ページ

表紙を見る
若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
  • 書籍化作品
[原題]若旦那からの求愛は溺甘で、時々激しい

総文字数/65,390

恋愛(純愛)132ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop