ループ10回目の公爵令嬢は王太子に溺愛されています
不審に思われているのはアルベルの表情から読み取れるも、兄からいずれ聞く話を今の自分が口にするわけにはいかず、ロザンナは早々に話題を変える。
「ところで、アルベルト様こそどうしてここに? 会の主役がいないと話にならないのでは?」
「単なる休憩だ。招いた立場でこんなこと言うのも悪いが、息が詰まって仕方がない」
苦しげに打ち明けられ、ロザンナは別館で目にした光景を思い出す。
あの場が婚約者候補の選定の場だと知らされていないのは、きっとロザンナくらいだろう。
誰もがみんな、娘の売り込みやアルベルトのご機嫌とりに躍起になっていたからだ。
その中心にいたのだから、笑顔の仮面の下で毒のひとつやふたつ吐いていたとしてもおかしくない。
「でしょうね」
つい気軽な口ぶりで同調してしまい、すぐにロザンナは「失礼しました」と頭を下げた。
勝手に敷地内をうろついたのだから怒られてもおかしくない状況で、しかも初めての展開に先も読めず、もっと気を引き締めるべきだったと後悔する。
叱られると身構えるも、わずかに間を置いてから発せられたのは小さな笑い声だった。
「そのままで。その方が気が楽だ」