ループ10回目の公爵令嬢は王太子に溺愛されています

アルベルトが警戒心を解くように、表情を和らげた。

それにつられてロザンナもわずかに肩の力を抜くが、彼の微笑みに胸の奥底がうずいた気がして、そっと背を向ける。

ドレスの裾が汚れるのも気にせず花壇の前にしゃがみ込んで、雑念を追い払うように真白き花を黙って見つめる。

不意に一輪の花がきらりと光を弾いた。思わず目を見開くと同時に花弁が透き通り、しかしすぐ元の白へと戻っていった。


「ア、ア、アルベルト様、今花が、ほんの一瞬、消えました」


あたふたしながら肩越しに訴えかけたロザンナの隣に並ぶように、アルベルトがしゃがみ込む。


「この花が、ディックだと分かるか?」

「あぁ、やっぱり! 色は初めて見ますけど、私の家の庭にもたくさん咲いています」

「観賞用としてが一般的だけれど、最近、魔法薬の素材としても注目されているんだ」

「……なるほど。それがこれなんですね」

「そう言うこと」


ディックが魔法薬用として用いられていることが一般にも知られるようになるのは、あと三年くらい先の話。

しかしロザンナはこれまで薬学に興味を持たなかったため、素材としてのディックを目にしたことはなかった。

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