ループ10回目の公爵令嬢は王太子に溺愛されています

これ以上ないくらいの笑顔のスコットに抱きしめられながら、ロザンナは虚な目をする。

心の中は「選ばれてしまって残念ですわ」という思いでいっぱいだ。

選ばれなかったら勉学に励みたいと言い易かったのだが、候補になると更に父の熱意が上がるのを知っているため、希望を押し通すのは無理だろう。

とはいえアカデミーに花嫁候補として入学するまでの五年間、何もしないまま無駄に過ごすつもりもない。

何か方法を考えなくてはとロザンナがぼんやり頭を巡らせ始めた時、「失礼します」とトゥーリが小さな鉢植えを抱えて室内に入ってきた。

何気なく彼女に視線を向けた後、ロザンナはその鉢植えを二度見し、目を見開いて動きをとめる。


「……そ、それは」


トゥーリが手にしている物に対して恐る恐るロザンナが問いかけて、それにスコットが上機嫌で答えた。


「アルベルト王子からロザンナへの贈り物だよ」

「ア、アルベルト様、から?」


驚きからつい問いかける口調になるも、これを贈ってる相手など彼以外考えられなかった。

トゥーリが抱え持っているのは、ディックの花。

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