ループ10回目の公爵令嬢は王太子に溺愛されています
騎士団の男性から気遣わしげな目を向けられ、ロザンナはにっこりと微笑み返した。
「いいんです。お変わりなければ、別にそれで」
表情とは違い、少し刺のある声でロザンナが言葉を返すと同時に、一気に患者が四人ほど診療所に雪崩れ込んできて、ゴルドンが慌て始める。
「あぁ、もうこんな時間か。すまないがカロン爺に薬を届けに行ってくれないか」
「はい。私が」
ゴルドンの声に応えてすぐさま動き出したロザンナへとリオネルが「俺も一緒に」と手を伸ばすも、さらに患者が二人増えたことでその手を引っ込めざるを得なくなる。
調合室へ戻り、今朝方ゴルドンが調合した栄養薬をカゴに入れ、人で溢れかえった待合室に舞い戻る。
「行ってきます」と、騎士団の男性と一緒にロザンナは診療所をでた。
騎士団の男性とは診療所の前で別れ、ロザンナは急いでカロン爺の家へ。
診療所から裏の林を抜け、北へ進むとほどなくして立派な家屋が目の前に現れる。花業を営んでいるため、広い庭には花壇や温室がいくつもある。
持ってきた栄養薬は、人ではなく植物に与えるものだ。ゴルドンの手により作られた栄養薬は瑞々しく長持ちすると評判だ。
呼び鈴を鳴らして戸口に出てきたカロン爺の息子に薬を手渡せば任務は完了。
だったのだが、家の奥からカロン爺も姿を現しお喋りを初めたため、ロザンナはしばらく足止めを食らうことになる。