ループ10回目の公爵令嬢は王太子に溺愛されています
解放された時にはもう日は暮れていた。
それでもまだ慌ただしいだろう診療所の待合室を思い浮かべながら、ロザンナはすっかり薄暗くなった道を急いで戻っていく。
しかし、診療所裏手の林に入った瞬間、妙に胸がざわめき、ロザンナの足が止まる。
何だろうと辺りに視線を巡らせるも林の中はさらに薄暗く、その原因を見つけられない。
気のせいだろうと思い直し、再び歩き始めた時、風がふわりと吹き抜けた。ロザンナの鼻腔を血の匂いが掠め、今度こそ足は完全に停止した。
耳を澄ませると、カサリと葉が鳴った。さらに神経を研ぎ澄ませると、荒い息遣いと苦しげな声を耳が拾う。
誰かいる。それも怪我を負った誰かが。確信と共に、気配がする方へと体を向け、ロザンナはゆっくり歩き出す。
林は一本道で、それを外れると大きな岩や背の高い草が邪魔して歩き辛い。薄暗闇に恐怖心を煽られるが、ロザンナは進むのをやめなかった。
「誰かいるの?」
ぽつりと声をかけても返事はないが、苦しげな息遣いは微かながらも確かに聞こえる。
慎重に歩を進めながら岩陰へと視線を落とし、捕らえた人影に息を飲む。
黒い外套に包まれた体の大きさからそこにいたのは男性。頭部と口元は布で隠され目しか見えないが、苦痛に耐えている状態なのははっきりと見て取れた。