ループ10回目の公爵令嬢は王太子に溺愛されています
男が顔を上げ、しっかりと目があった。赤くぎらつく瞳にかかった黒髪も燃えているかのようにちかちかとオレンジの輝きが混ざっている。
薄暗闇の中だからか余計に目立って見えた。
これは火の魔力を有する者が魔力を発動中、もしくは発動後の名残りとして身体に現れる特徴でもある。
何かと戦い負傷し、ここへ逃げ込んできたところだと考えて間違い無いだろう。
すぐ傍に彼に相対した敵がいるかもと考えれば急にこの場が危険に思えてきて、ロザンナは恐怖で背筋を震わせる。
男はおもむろに視線を逸らし、腹部を手で抑えながら立ち上がろうとする。
むっと漂ってきた血の匂いにある光景を呼び覚まされ、ロザンナは咄嗟に外套の上から彼の腕を掴んだ。
「動いちゃだめです。怪我してますよね。しかもとてもひどい」
手を振り払われはしなかったが、男から返される鋭く攻撃的な眼差しにロザンナはわずかに背筋を震わせる。
下手に動いたら命を奪われるかもしれない。そう思うのに、どうしても手を離せない。
「こう見えても、私は聖魔法が使えます。あなたに害を及ぼすつもりはないわ。ただ見過ごせないだけ。……だから座って」
賭けるような気持ちで、ロザンナは強くはっきり要求する。