ループ10回目の公爵令嬢は王太子に溺愛されています
相手はどんな輩かわからないのに放っておけないのは、苦しげなその姿が馬車事故に遭い息を引き取る間際の父の姿とどうしても重なるからだ。
「あなたを救いたい。救えなかったら、私が今を生きている意味がないから」
男にかけた言葉は、自分自身に言ったものでもある。
ロザンナは男の腕を掴んだまま、ゆっくりその場に膝をつく。
男は中腰のままじっとロザンナを見つめていたが、痛みに顔を歪めて崩れ落ちるように地面に尻をつけた。
それを治療への同意とみなして、ロザンナは腕から下げていたカゴを地面に置き、「失礼します」と呟きながら外套に手をかけた。
左腹部に大きく広がる黒いシミは、大量の血。
シャツをまくって鋭利な物で切られたような傷口を目視した後、ロザンナは短く息を吸い込んで患部に右手をかざし、そっと目を閉じる。
自分の全てを総動員させるように、手の平に気を集中させる。彼から伝わる冷たさが手に、腕に、体に絡み、ロザンナを飲み込もうとする。
まだまだ足りない。この程度では救えない。彼も、両親も。……そんなの嫌。絶対に救ってみせる。
強い思いが大きく膨れ上がる。右手だけでなく左手もかざし、ロザンナは歯を食いしばった。