ループ10回目の公爵令嬢は王太子に溺愛されています
しかも、ロザンナの視線に気付いた男がクリスタルチャームを外套の下に隠し、あまり見られたくないのか露骨に顔も逸らし出す。
これ以上関わりたくない。男にそんな態度をとられても、手を出してしまった以上、責任は最後まで持つべきだろう。ロザンナは熱く話しかける。
「すぐそこに診療所があるわ。出血も多かったし、見習いの私の治療じゃなんだか心許ないし、ちゃんと見てもらった方がいいと思います。先生はとっても腕利きだから」
しかし、男は俯いたまま首を横に振る。
いくら歯痒くても相手が自分より大きな男性では無理に連れて行くこともできず、ロザンナは諦めたように立ち上がる。
「それなら回復薬を持ってきます。すぐに戻ってくるから、ここで待っていなさい」
命令口調で言葉を並べた後、何度か男の方を振り返り見ながら、急ぎ足で歩き出す。
必死だったため過分に力を使ってしまったようで、林の中を進む途中で足元がふらつき、ロザンナは近くの木の幹に手をついた。
けれど、こんなところで立ち止まってはいられないと、両足に力を込めて前に進む。
診療所に辿り着いた瞬間、ちょうどゴルドンがランタン片手に外へと出てきた。