ループ10回目の公爵令嬢は王太子に溺愛されています
「確かにひどい出血の痕跡があるが、動けるようだし後は自分でなんとかするでしょう」
「それなら良いんですけど」
ロザンナは回復薬の入っているカゴへと視線を落とす。
無理に動いたことで、もしかしたらこの林のどこかで倒れているかもしれないと考え、後悔がロザンナの胸を締め付ける。
ひとりで場を離れず、無理にでも彼を診療所に連れていくべきだったのかもと。
どれだけ後悔を募らせても、今更遅い。ゴルドンの言葉通り、自分の足で安全な所に逃げ延びれたのを祈るしかない。
「診療所に戻りましょう」というゴルドンのひと言で、ふたりは引き返す。カゴをふたつ持って歩くロザンナへ、ゴルドンがぽつり問いかける。
「負傷者の性別は? 何か特徴などありましたか?」
「男性で、おそらく火の魔力を有していると思います。でも分かったのはそれだけです。外套を纏って顔も隠していましたし、声も聞いてない。昼間だったらもう少し情報も得られたでしょうけど、他には何も……」
そこでロザンナは「あっ」と声を発する。抜け落ちかけていた記憶を慌てて手繰り寄せるものの、話すのに少しばかりのためらいが生まれた。