ループ10回目の公爵令嬢は王太子に溺愛されています
完全にまぶたを閉じた時、馬の嘶きが大きく響いた。慌てて目を開けて、同じく驚いているトゥーリと視線をかわす。
窓の外に見えたのは、帰り道の途中にあるパン屋。店先に下げられたランタンの明かりが、不安げに通り過ぎていく人々の姿を浮かび上がらせる。
馬車も止まったままで動かないため、「何かあったのでしょうか」とトゥーリが戸を開けて外へ出た。
人々がひどくざわめいているのを感じてロザンナも中に留まっていられなくなり、すぐさま後に続く。
「どうしたの?」
「事故のようです」
御者から返ってきた言葉に、ロザンナの鼓動が重々しく響いた。
「……事故? まさか」
人が集まっている方へと、ロザンナは歩き出す。トゥーリが「お待ち下さい」と叫ぶも、ロザンナの足は止まらない。
時折よろめくのは、先程力を酷使したのが響いているからか、それともこれから目にする光景の中に両親の姿があるかもしれないという動揺からか。
そうであって欲しくないが、しかしその日は確実にやってくる。
怖いけれど、目を背けるわけにはいかない。両親を救うために、これまで頑張ってきたのだから。