ループ10回目の公爵令嬢は王太子に溺愛されています
拳を握りしめながら路地裏へ入り、人々の間をすり抜けた瞬間、足が止まる。地面には馬と男が横たわり、血溜まりの上でぴくりとも動かない。
ロザンナが唇を噛むと、横に並んだトゥーリが小さく悲鳴を上げる。男はエストリーナ家に使えている御者のひとりだ。
「お父様、お母様」
急き立てられるようにロザンナは馬車に歩み寄る。開いていた戸から馬車の中を覗き込むと、そこに母の姿があった。
「お母様! しっかりして」
頬や服が赤く染まっていて、息も絶え絶えだ。と同時に、「しっかりしろ!」と声が聞こえ、ロザンナは外へと視線を戻す。
馬車の反対側へと回るとそこには、男性に抱き抱えられた父の姿。母同様、血を流しぐったりとした状態。
「トゥーリ! 今すぐゴルドン先生を呼びに行って。はやく!」
ロザンナから力強く指示を出され、茫然と立ち尽くしていたトゥーリはハッと我にかえる。「はい!」と声高に返事をし、勢いよく身を翻した。
「お父様、あと少しだけ頑張って!」
涙を浮かべながら呟き、ロザンナは馬車の中へと戻り、母と向き合う。
「怖気付いちゃダメ。やるのよ、ロザンナ。大丈夫、さっきのようにやればいい。救えるわ」