ループ10回目の公爵令嬢は王太子に溺愛されています
大きく息を吸い込み、ロザンナは母の赤く染まった腹部に両手をかざした。
母を救いたい。その一心で力を注ぎ込む。
ロザンナの手が輝きを放ち、感じていた気持ち悪い冷たさを押し戻ていく。
光が徐々に母の体を覆い尽くす。光の繭に抱かれた中で、母の呼吸が安定し、その目も薄く開かれた。
もう、大丈夫だ。本能でそう悟り、ロザンナは床に手をついた。光の余韻が母を包む傍で、荒々しく肩で呼吸する。
母へと小さく微笑みかけてから馬車を降り、すぐさま父の元へ向かう。
スコットを抱きかかえていた男性が、やってきたロザンナに驚きの表情を浮かべながらも、状態を口にする。
「襲われたんです、大柄の男に。大声をあげたら人が集まりだしたら、逃げて行きました」
ロザンナはスコットの腹部に押し当てていた布を退かす。状態が、母同様に鋭利な刃物で切りつけられたのをはっきりと物語っている。
どういうことかと動揺するも、考えるのは後回しだとすぐに表情を引き締め、光り輝いたままの手を患部にかざした。
しかし視界が大きく歪み、思うように力が流れていかない。
もう力が残っていないと気づいても、それを受け入れることなどできるはずもなく、ロザンナは懸命に父と向き合う。