あまやどりの魔法
"お店には並ばない身内のためのケーキだから、試作品とは呼ばないけど、練習用ケーキだから試作品は試作品だよね" と説明をしてみせる葉月くん。
話しながらキッチンで作業をし始める姿を、一瞬も見落とさないように視界にいれた。
「葉月くんのお母さんが、今日誕生日なの?」
「そうだよ?だから今日は店休みにして父さんと旅行いってる。で、俺のケーキの出番は明日」
カウンターの奥にいる葉月くんは、お湯を沸かす準備をしたりお皿を取り出したりして。
遠目からでも分かるほど、音符がまわりで踊ってる。
「…びっくり。こんなことってあるんだ」
「ん?」
「私も今日、誕生日なの」
たのしそうな音がやすんで、私をみた。
「まじで?!すごいタイミング!」
曇りのない笑顔は、不思議と私を笑わせる。
おもしろいことなんて、何一つ言ってないはずなのに。
「そしたらちゃんとトッピングするからちょっと待ってて…って、予定とか入ってない?大丈夫?」
「その予定が雨で流れちゃって、恨めしく思ってたとこ」
「はは!じゃあ、ハッピーに変えたら好きになる?」