あまやどりの魔法
「ひみつ多いなぁ、紫ちゃん」
葉月くんも少しでも、なにかで私を思い浮かべたらいいのに。
それが、煩わしかった紫陽花でも、会ったことのないお母さんの名前でも、まぁいいかなって思った。
「知らないことが多いのは、私も一緒」
これっきりに、ならなければいい。
7色以上はあるはずの葉月くんの色んな表情を、これから知っていきたい。
太陽がのぼるように自然に切り替わった呼び名に、未来の期待をする。
「俺は聞かれたら答えるけどなぁ」
"これから" も、きっとあるって。
「いつか、みつけてみて」
「みつかるのそれ?」
「どうかな?」
雨に対する憂鬱を忘れて、他愛のないことでけらけらと笑い合えるこの時間は、
どんな誕生日プレゼントよりも、しあわせなプレゼントだと思う。
“Happy Birthday Yukari"
シフォンケーキが置かれた真っ白なお皿の上に、丁寧に存在を主張していく私の名前をみて、思った。