あまやどりの魔法
"送ってくよ"
葉月くんがそう口にしたのは、シフォンケーキを平らげて3杯目のダージリンを飲み終えた頃。
いつの間にかやんでいた雨音に、2人で覗きにいった窓の外では、すっかり傘の役目が終わっているようだった。
実際に足を踏み込むと、まだ空気は水分を残していて。
葉月くんとの時間を過ごす前の私だったら、その瑞々しさにまいっていたと思う。
…でも今は、不思議と違ってみえた。
乾ききらない地面。水滴に包まれたままの草木や、日常に置かれたもの。
みずたまりに映る空。
ありふれた景色にあふれる無数の色彩が、水分に反射してきらめいて、艶やかだ。
当たり前にみえていたものが、唯一無二の景色に変わっていく。
「紫ちゃん!みて!」
靴を履いて玄関を出て、街ばかりに目を奪われていた私の後ろから、弾むように近づいてきた声に振り返る。
きらきらと揺れる瞳が私を誘って、その行き先を追ってみあげた、東の空。
「にじ!」
雨のカーテンが残るキャンパスに、カラフルなアーチ。