あまやどりの魔法



「はは!そんな風にみえるんだ俺?」


温風から冷風に切り替えて、丁寧に髪に風をいれてくれていた葉月くんは、"はいおしまい!" とキレイに乾いた私の髪を指でといて、満足げに頭をなでた。



「…ちがうの?」

「ちがくないんだよなー、それが」


結構自信あったのにと顔に出さないように思っていたら、葉月くんがニヤッとした。



「雨、よくない?」


その悪戯な顔が、私の心を見透かしたものじゃなくて、雨の魅力にわくわくしてる顔だと気づくのに、時間は少しもいらなかった。



「…すきになれる魔法があるなら教えてほしいくらいだよ」



シャッターが下りているせいで、みえない窓の外。

まるで涙のように空から降ってくるそれに、どれほどの人が心を沈ませているんだろう。


手放せない傘、制限されたおしゃれは、私達から自由だけを奪って、容易に雨色にそめていってしまう。


そんな雨をすきだと笑える人は、特別なんだと思う。


シャッターの向こう側をみつめる私の横から、"…すきになれる魔法" と小さく漏らした葉月くんは、きっと、選ばれた人だ。



「…恵みの雨だっていうなら、寝てる間に降ってくれればいいのに」


< 7 / 20 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop