あまやどりの魔法
「はは!そんな風にみえるんだ俺?」
温風から冷風に切り替えて、丁寧に髪に風をいれてくれていた葉月くんは、"はいおしまい!" とキレイに乾いた私の髪を指でといて、満足げに頭をなでた。
「…ちがうの?」
「ちがくないんだよなー、それが」
結構自信あったのにと顔に出さないように思っていたら、葉月くんがニヤッとした。
「雨、よくない?」
その悪戯な顔が、私の心を見透かしたものじゃなくて、雨の魅力にわくわくしてる顔だと気づくのに、時間は少しもいらなかった。
「…すきになれる魔法があるなら教えてほしいくらいだよ」
シャッターが下りているせいで、みえない窓の外。
まるで涙のように空から降ってくるそれに、どれほどの人が心を沈ませているんだろう。
手放せない傘、制限されたおしゃれは、私達から自由だけを奪って、容易に雨色にそめていってしまう。
そんな雨をすきだと笑える人は、特別なんだと思う。
シャッターの向こう側をみつめる私の横から、"…すきになれる魔法" と小さく漏らした葉月くんは、きっと、選ばれた人だ。
「…恵みの雨だっていうなら、寝てる間に降ってくれればいいのに」