ヒミツの恋をはじめよう
【9】秘密〜難波side〜
生まれてから三十年。過去に女性と付き合ったことはあるが、俺は彼女たちの“お飾り”でしかない存在なのだと判った瞬間、恋愛をする気力を失った。
恋人を作らず、誰にも束縛されない生活に慣れてしまえば、このまま一生一人でもいいとさえ思っていた。
そんな俺に彼女との出会いが訪れた。
俺がこの町に引っ越して間もない頃、一人の女性とすれ違った。
ほんの数秒、されど数秒。その女性の姿に目を奪われて身動きが取れないほど、俺の中に衝撃が走った。
スタイルがよい、美人だ、という簡単な言葉では言い表すことが難しいくらい、俺の目には彼女が輝いて見えた。美しさの中に少しの儚さが滲んでいたのが印象的で、理性がなかったら、そのまま告白してしまっていたかもしれない。
恐らく俺はこの年齢にして、初めて“一目惚れ”をしたのだと思う。
どこに住んでいるのかすら分からない彼女の存在が頭から離れず、彼女とすれ違った場所を通る度に、俺は彼女を探すようになった。
彼女に出会ってから数週間経ったある土曜日。友人と飲みに行く為に駅へと向かっていたところ、俺は再び彼女の姿を見かけた。彼女の隣には一人の女性がおり、二人でどこかへ出かけるようだった。
(・・・どこかで見たことある顔だな)
彼女の隣に並んで歩いている女性に見覚えがあるも、直ぐには思い出すことができなかった。約束の時間が迫っていた為、彼女に会えた幸せを噛み締めながら、急いで待ち合わせ場所へと向かった。
「あ!」
「なんだよ」
「思い出した!」
高校時代の友人である門上恭司と二人で酌み交わしている際に、ふと彼女の隣にいた女性の存在を思い出した。
「恭司の彼女だ」
「なに、突然」
「さっき、駅で見かけたんだよ」
「ああ。友だちとご飯に行くって」
「その友だちって誰?」
「・・・知らん」
「その間は知ってるだろ」
恭司は訝しむように顔を顰め、俺を見ている。彼女の存在を聞くだけで、なぜそこまで機嫌が悪くなるのかが分からずに首を傾げる。
「彼女はダメだ」
「詩歩ちゃんの話じゃないぞ」
「分かってるよ。だからダメ」
彼女の友人であるからなのか、それとも彼女に何か思い入れがあるかは分からないが、恭司のその態度に彼女には何かあるのだと気づいた。
「もしかして、恭司はその子のことが?」
思いついたと言わんばかりに指摘すると、恭司は溜息を吐き、呆れた表情で俺を見ている。
「なに言ってんだ。俺には詩歩しかいない。清人こそ、その子の名前なんか聞いてどうするんだよ」
確かに、言われてみればそうだ。名前を聞いたところで、彼女に近づけるわけでもない。それでも、俺は彼女の名前が知りたかった。
「どうするもこうするも、気になるから聞いてるだけだ」
「お前が女性に興味を持つなんて珍しいな」
言われてみれば、最後に付き合った女性と別れてから、俺は女性に興味を一切示さなくなった。
恋人を作らず、誰にも束縛されない生活に慣れてしまえば、このまま一生一人でもいいとさえ思っていた。
そんな俺に彼女との出会いが訪れた。
俺がこの町に引っ越して間もない頃、一人の女性とすれ違った。
ほんの数秒、されど数秒。その女性の姿に目を奪われて身動きが取れないほど、俺の中に衝撃が走った。
スタイルがよい、美人だ、という簡単な言葉では言い表すことが難しいくらい、俺の目には彼女が輝いて見えた。美しさの中に少しの儚さが滲んでいたのが印象的で、理性がなかったら、そのまま告白してしまっていたかもしれない。
恐らく俺はこの年齢にして、初めて“一目惚れ”をしたのだと思う。
どこに住んでいるのかすら分からない彼女の存在が頭から離れず、彼女とすれ違った場所を通る度に、俺は彼女を探すようになった。
彼女に出会ってから数週間経ったある土曜日。友人と飲みに行く為に駅へと向かっていたところ、俺は再び彼女の姿を見かけた。彼女の隣には一人の女性がおり、二人でどこかへ出かけるようだった。
(・・・どこかで見たことある顔だな)
彼女の隣に並んで歩いている女性に見覚えがあるも、直ぐには思い出すことができなかった。約束の時間が迫っていた為、彼女に会えた幸せを噛み締めながら、急いで待ち合わせ場所へと向かった。
「あ!」
「なんだよ」
「思い出した!」
高校時代の友人である門上恭司と二人で酌み交わしている際に、ふと彼女の隣にいた女性の存在を思い出した。
「恭司の彼女だ」
「なに、突然」
「さっき、駅で見かけたんだよ」
「ああ。友だちとご飯に行くって」
「その友だちって誰?」
「・・・知らん」
「その間は知ってるだろ」
恭司は訝しむように顔を顰め、俺を見ている。彼女の存在を聞くだけで、なぜそこまで機嫌が悪くなるのかが分からずに首を傾げる。
「彼女はダメだ」
「詩歩ちゃんの話じゃないぞ」
「分かってるよ。だからダメ」
彼女の友人であるからなのか、それとも彼女に何か思い入れがあるかは分からないが、恭司のその態度に彼女には何かあるのだと気づいた。
「もしかして、恭司はその子のことが?」
思いついたと言わんばかりに指摘すると、恭司は溜息を吐き、呆れた表情で俺を見ている。
「なに言ってんだ。俺には詩歩しかいない。清人こそ、その子の名前なんか聞いてどうするんだよ」
確かに、言われてみればそうだ。名前を聞いたところで、彼女に近づけるわけでもない。それでも、俺は彼女の名前が知りたかった。
「どうするもこうするも、気になるから聞いてるだけだ」
「お前が女性に興味を持つなんて珍しいな」
言われてみれば、最後に付き合った女性と別れてから、俺は女性に興味を一切示さなくなった。