時の止まった世界で君は
「なつ、おはよう」

毎朝の回診の時間

いつも通りノックしてドアを開けると、まだ寝息を立てて眠っているなつがいた。

「なーつ、回診だよ。起きて」

軽く肩を叩いて起こしてやると、なつは眠そうに目を擦る。

「ん……?せんせ?」

寝起きだからか、舌っ足らずな喋りのなつ。

「そうだよ。なつはお寝坊さんだね、もう病棟のみんなは起きてるよ?」

「…ん、まだ、ねるの……」

そう言って再び布団に潜ろうとするなつの手を止めて、布団を剥がす。

「だーめ。ちゃんと起きて。今日の朝ごはん、なつの好きなヨーグルト出るっていってたけど良いのかな~。早く起きないなら、先生が食べちゃおっかな~」

「たべる!!」

そう言って勢いよく起き上がったなつ。

「はーい。じゃあ先に診察してからね~」

「えー、先に食べる!診察あと!」

「だーめ。すぐ終わらせるからちょっと我慢して。」

そう言うと、ぷくーっとほっぺを膨らませてあからさまに不満の表情を浮かべるなつ。

「そんな顔してもダメなものはダメだよ。早く元気になって、お外にお散歩行くんでしょ?」

「うん…」

「じゃあ、頑張ろう?今日は、注射ないから痛くないよ?」

「うん……」

渋々と言った表情でなつは服をまくる。

話している間に温めておいた聴診器で診察を始める。

なつとの朝はいつもこんな感じ。

嫌だと駄々をこねるなつをどうにか説得して、診察をする。

診察だけならいいんだけど、その日に採血や点滴が入っていたらそれはもう大変だ。

こんなやり取りが始まったのは、思えば4年前の秋頃だったっけ……
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