時の止まった世界で君は

宏樹side

泣き疲れたなつは帰りの車の中ですっかり眠ってしまった。

きっと、久しぶりの外出の疲れもあるのだろう、なつはぐっすり眠ったまま病院まで目を覚まさなかった。

病室について、眠ったままのなつをベッドに降ろし布団をかける。

買ってきたカメのぬいぐるみも、なつの枕元に置いてあげて、それから軽く診察をした。

熱は微熱、呼吸音や心臓の音は正常、少し脈がはやいけど、恐らく疲労によるものだろう。

眠るなつの顔はまだ穏やかで、今日は病気の症状もなく過ごせていたんだなと改めて安心した。

……明日からまた、治療の日々が始まる。

次になつが外に出られるのは何時だろうか。

ふと思いを馳せて切なくなった。

…でも

『なつも、がんばるから!』

水族館で宣言していたその声を思い出して、少し俺まで勇気づけられた。

なつは、頑張って病気に打ち勝とうとしている。

辛い治療も、我慢して耐えて楽しい未来を掴もうとしている。

俺は、それを一番近くで支えてあげる存在にならなきゃな…

「がんばれ、なつ」

頭を撫でながらそう呟いた。
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