時の止まった世界で君は
「なつー、このままだとまた苦しくなっちゃうからさ、一回眠くなるお薬使って寝ちゃおうか。」

俺が鎮静剤を持ってきて、染谷先生がなつに説明をする。

しかし、なつは注射だと気付いたようで、またイヤイヤと首を横に振り泣いてしまう。

「ちゅうしゃ、やだあ……」

今日のなつは、いつもみたいに怒って否定する様子ではなく、本当に辛そうに泣くので俺も染谷先生も怒るに怒れない……

「でも、なつ、また一人になったら怖くなっちゃうでしょ?この治療は、動いたらすっごく危ないの。だから、なつが寝てる間にやろう?」

「やだ、いたいの、いやあ……」

だんだんとまたなつの呼吸は荒くなっていく。

「うん、ごめんな、いやだよな。」

先生が懸命に、なつのことをあやそうとするけど、それもほとんど意味をなさずなつの涙は増え呼吸も荒くなるばかりだった。

「おへや、かえろ?なつ、ひろくんといっしょにいたい……、ここ、やだ…、かえりたい……」

そう言ってなつは泣くばかりで、俺も先生も困り果ててしまう。

頭を捻って、どうにか治療を受けて貰えないか考えるも中々良い案が浮かばない……

「あの……」

その声に振り向くと、放射線技師の方が時計を指さしていた。

「申し訳ないんですが、もうそろそろ次の患者さんの用意もしなければいけない時間でして……」

…………

やってしまった……

タイムアップか……

先生の顔を見ると、先生は苦笑いでもう既に固定具を外し始めていた。

「時間切れか。仕方ないな。……ほら、なつ、今日は出来なくなったからお部屋戻るよ。泣かないの。」

優しい口調でそう言いながら固定具が外されると、なつはすぐに染谷先生に抱きついた。

「明日はちゃんとやらなきゃ行けないよ?わかってる?」

先生がそう聞けば、なつはこくりと頷きを返す。

しかし、不安げな様子は消えないままだった。
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