時の止まった世界で君は
「なつ、一人になるの苦手なんだ。」

泣き疲れて眠ってしまったなつを病室で寝かせて、部屋を出てから染谷先生は呟くような声でそう言った。

「一人になると、置いていかれるんじゃないか、また独りぼっちになっちゃうんじゃないかって不安になるみたい。」

生い立ち的に、ってことだよね……

染谷先生の寂しげな笑みに俺まで胸が締め付けられる。

「だから、あれだけ…取り乱すんだろうね。置いていかないで、独りにしないで……って」

さっきの治療室でのなつの悲痛な声と泣き顔を思い出して、さらに胸が痛くなる。

「んー、困ったな。昔は、何回かやっていくうちに慣れてくれたんだけど……、また慣れるまでは少し大変になるかもな」

先生はそう言って苦笑いをするけど、俺は明日以降が不安で仕方がなかった。

だめだ、最近は先生に頼りすぎてる。

なつはきっと、染谷先生が居てくれた方が安心するんだろうけど、それじゃあいつまで経っても前と変わらないよな……

俺がもっと、なつに心を開いてもらわなくちゃ。

ちゃんと、なつの心に向き合わなきゃ。

「夕方の回診の時、少しなつと話してみます。何が怖いか、嫌なところを少しでも取り除けないか……、なつの精神的負担を出来るだけ取り除けるように方法を考えてみます。」

染谷先生の目を見てそう言うと、先生は少し驚いたような表情をしてから、ニッコリと笑ってくれた。

「うん。お願いするよ。」

ポンポンと背中を叩いて励ましてくれる、染谷先生の手は相変わらず大きくて暖かかった。
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