時の止まった世界で君は
「……今日の治療さ、何が怖かった?」

診察がおわり、布団に戻りかけるなつを呼び止めて話しかけた。

”お話させて”とは言っていたから、なつもわかってはいたんだろうけど、少し表情が硬くなった。

「……だいじょうぶ…」

明らかに大丈夫ではない様子なのに、なつは暗い表情でそういう。

「…そっか。」

この前、染谷先生となつの会話を見て1個学んだ。

それは、なつの発言を否定しないこと。

絶対違うって思っても、染谷先生の言葉はいつもなつの意見を一度受け止めていた。

「じゃあさ、何がいやだったかな。」

そういうと、ぬいぐるみを抱きしめたままの体がピクリと小さく動いた。

「…………。」

「いやだったこと、もしあれば教えて欲しいな。治療はしなきゃ、だけど嫌なことはちょっとでも少ない方がいいでしょ?」

なつの視線がゆっくりとこちらを向く。

困ったように下がった眉はまだ俺に対する信頼が完全に無いのを感じさせる。

でも……

「なつのこと、少しずつでもいいから教えて欲しいな。なつが嫌なことも、嬉しいこともどっちも教えて?そしたらさ、ちょっとでも嫌なこと減るように俺も頑張るし、治療終わったらなつの嬉しいことしよう?」

なつの信頼を得るためにはこれしかないと思った。

徹底的になつに向き合う。

きっと、これまで染谷先生が当たり前に長年やってきたこと。

真剣な面持ちでなつの目を見た。

まだ不安げな表情のなつの目には今にも溢れんばかりの涙が溜まっていた。
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