時の止まった世界で君は
「……なつ、ひとり、きらい…」

絞り出すような声

「うん」

「………なつ、ひとり、こわい……くらいのも、こわい……」

「うん」

目に涙を浮かべながら、なつはぽつりぽつりと語り始めた。

「……くらいおへやでね、ひとりだとね、ここがきゅってするの、しんぞうばくばくしてね、いき、くるしくてね………、いや…………」

胸のあたりを押さえながらついに抑えきれなくなった涙をこぼしてなつは嫌なところを教えてくれた。

「そっか、それで嫌だったんだね。うん、教えてくれてありがとう。」

そう言いながらなつの頭を撫でれば、なつはそのまま俺のスクラブをぎゅっと握った。

「……じゃあさ、明日からちょっと気持ちが落ち着く薬飲んでから行ってみようか?」

「注射?」

「ううん、注射じゃないやつもあるよ。ゴックンって飲み込むお薬。」

そう言えば、なつは少しだけ安心したような表情をして小さく頷いた。

しかし、すぐにまた不安な表情になってなつは俺の顔を見上げた。

「…でもね、でも……」

「うん」

「……それでも、こわくなっちゃうかも…、そしたらなつ、また、いきくるしくなっちゃう………」

薬が効いてもなお恐怖が残るかもしれないってことか……

確かに、それも有り得ない話では無い、そしたら……

「大丈夫だよ。先生たち、ずっと隣のお部屋でなつのこと見てるから。息苦しくなったらすぐ休憩にしてあげるし、どうしても辛かったら眠くなるお薬使おう?」

そう言えば、また少し落ち着いたようになつの表情が緩んだ。

「なつのペースで頑張ろうな。むりはしなくていいから。こわいこと、苦しいことちゃんと教えて?」

コクン

「うん。ありがとう。明日は頑張ったあとのご褒美何がいい?ジュース飲むとか、お菓子食べるとか」

ジュースという単語を聞いた途端、それまで落ち着きつつも不安げだったなつの瞳に一気に光がさした。

「なつ、りんごジュースのむ!」

「りんごジュースね、わかった。じゃあ明日用意しておくね。」

そう言えばなつの表情はもっと明るくなって、ふふっと笑みが零れた。

ジュースでこんなに喜んでくれるの可愛いな。

「じゃあ明日、一緒に頑張ろうね。」

コクン

力強い頷きだった。
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