時の止まった世界で君は
放射線治療室に着く頃、なつみはスースーと寝息を立てて眠っていた。

歩く時の振動が心地よかったかな?

そんな可愛らしいなつみを起こさないようにそっとベッドに降ろす。

「ん……」

「大丈夫だよ、寝てな」

降ろした際に微かに目を開けたなつみ。

でも、声をかけて頭を撫でてやれば、またすぐに安心した顔で瞼をとじた。

この様子なら、治療が終わる頃まできっとぐっすりだろう。

なつみが辛い思いをしない事にホッと胸を撫で下ろし、そのままベッドサイドを離れることにした。




隣のモニタールームへと移動するために、扉へと向かうと、途中、手持ち無沙汰に突っ立っている瀬川と目が合った。

「……どうしたの、何かまだ用ある?」

「あっ!いや、ないです!」

「あっそ……用ないなら、居ても邪魔だから、さっさと移動しな。」

そう言うと、瀬川はまた焦ったような返事をして、萎縮した様子のまま、俺の後ろをぎこちなく追いかけてくる。

……いかにも新人って感じ。

「はあ……。」

思わずため息を零すと、またそれにピクリと反応する瀬川の姿が視界の端に映る。

無言で瀬川の方に視線をやれば、目が合うと気まずいのか何か知らないが、スっと目を逸らされて、またそれも俺の心を逆撫でた。

「あのさあ」

そう言うと、瀬川はさすがに呼ばれては返事をせざるを得ないのか、ビクつきながら返事をする。

「……何をビビってんのか知らないけど、嫌なものから目を逸らしてちゃ、何も始まらないと思うけど?」

俺に対する新人の態度は概ね2パターンだ。

怖がって寄り付かなくなる、もしくは、逆ギレして裏で愚痴をばら撒かれる。

こいつの場合、恐らく前者だろう。

前者であれば、何を言ってももう目を合わせてこない。

そう思って目線をあげる。

すると、……待っていたのは予想外。

こちらを射抜くような真っ直ぐとした視線だった。
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