時の止まった世界で君は
「よし。このまま時間かけても怖くなるだけだから、もうそろそろ頑張ろっか。」

先生も暇ではない。

待ってあげたいのは山々だけど、これ以上時間はかけられないのだろう。

ベッドに降ろされたなつみちゃんは、見ているのが辛いくらい怯えた表情をしている。

「5分くらいで終わらせるから。…少しだけ、頑張れる?」

そう言われたなつみちゃんは、涙を沢山うかべたまま一度大きくゆっくり瞬きをした。

それから、震えたまま小さく首を縦に振った。

「いい子。自分でやるって言えて偉いね。じゃあ、ちょっと頑張ろうな。」

再び横になったなつみちゃんにシーツとタオルケットをかけ直す。

言われなくても、背中を丸めた検査の体勢になったのは慣れているからなのかな。

……毎回、こんなに怖い思いしながらこれまで何回も頑張ってきたのかと思うと胸が締め付けられた。

「消毒するよ。」

ギュッと目をつぶったなつみちゃん。

きっと痛いのがわかっているから、この時間すらも怖いんだろう。

「……瀬川、手握ってやって。」

「はい。」

今回の俺の一番の役目はこれなんだろう。

少しでも安心してもらうため、痛みは軽減できなくてもちょっとでもなつみちゃんの心の負担を減らしてあげられるように手を握る。

握った手は、緊張からかとても冷たくて震えていた。

「麻酔の注射するよ。少し痛いけど我慢な。」

麻酔の針が刺さる瞬間、手を握る力が強くなる。

「……っ、ふぅ…うぅ……」

「なつ、頑張れてるよ。偉いね。もう少しだからね。」

なつみちゃんは、泣き喚くこともせず一生懸命注射に耐えた。

なつみちゃんの額に浮かんだ汗をハンカチで拭う。

「よし。麻酔終わったよ。あとは本番の針刺すだけだからね。少しグリグリするよ。」

骨髄検査は、背骨の間にある骨髄から髄液を採取して行う検査だ。

麻酔を行ったあと、骨髄まで長い針を刺していく。

これは、麻酔のおかげで痛くはないんだけど…

問題はここから……
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